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医療機器の小型化という課題を解決するために


著者:ブレット・ランドラム
フィリップス・メディサイズ社のグローバルイノベーション兼デザイン担当バイスプレジデント

過去数年間、フィットネスアプリへの消費者需要は、新しい健康モニタリングアプリケーションの爆発的増加につながりました。スマートフォン、スマートウォッチ、ハンドヘルドガジェットは今や、血中酸素濃度から呼吸数、心拍数とリズム、睡眠の質から手首の体温まで、すべてを計測するようになりました。国立衛生研究所によれば、米国成人の30%近くが何らかの種類のウェアラブル医療デバイスを使用しているということです。

これらのデバイスは面白く有益な情報を提供してくれますが、医療水準を達成するように設計または製造されているわけではなく、診断の正確さについて依拠することはできません。しかし、この動きは医療グレードのデバイスメーカーを刺激し、彼らは自社の患者モニタリングデバイスのフットプリントの最小化に乗り出しました。医師が処方して患者が自身の治療と投薬の管理に使用できるタイプのデバイスです。これらのデバイスとインプラントを小型化して邪魔にならないようにし、管理しやすくすることで服薬遵守を向上させ、患者がより普通の生活を送れるようにします。これは、臨床医が治療判断を行うための情報も提供します。

より小さく、快適でより効果的

患者を遠隔でモニタリングするデバイスは、心臓病、慢性閉塞性肺疾患、喘息、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群その他、疾患を持つ多くの患者の状態モニタリングに使用できます。高齢化が進むにしたがい、このような慢性疾患を持つ人の数は増えており、個別化された遠隔管理デバイスがあることで、診察や入院時間の短縮にも役立つと考えられます。  

ただし、このような遠隔医療デバイスが役立つのは、患者自身が使用に合意した場合に限られます。初期の頃、この種のデバイスは、使い方が面倒で複雑なものでした。たとえば心拍計に使う電極などは、胸部の全体に取り付ける必要がありました。しかも、それだけ大掛かりな装置であっても、信号が中断することが多かったのです。  

 このような心拍計でも、その他医療機器でも、小型化されれば、患者さんは日常生活に支障なくそれらを装着できるようになります。現在の小型化したデバイスの多くは、装着したままスポーツをしたりシャワーを浴びたりできるものになっています。ほかには、消化管内の画像を記録できる飲み込むタイプのカメラなどもあり、身体に負担で時間もかかる胃カメラのような手順と置き換えることが可能です。  

 自宅で簡単に、楽に使える、効率の良い医療機器も色々あります。たとえば持続血糖モニタリングという血糖測定手法は、皮下に埋設したセンサーで糖尿病患者の血糖値を10秒間隔で測定するものですが、これを使うことで痛みを伴う指先での採血が不要となります。血糖値を持続的に測定していれば、血糖値が低すぎたり高すぎたりといった危険な変動があった際に、早期に患者に知らせて対応を取らせることで、心臓発作を回避することができます。  

 レルギーや喘息といった症状向けには、小型センサーを使ってスムーズに投薬を行える注射装置があります。例えばPhillips-MedisizeのAriaスマート・オートインジェクター(英語)は、アラーム音で注射の進み具合を知らせる機能があり、都度、適正量を注射することができます。このオートインジェクターでは、薬剤の使用期限もセンサー技術を使って自動監視しており、期限切れが近づくと患者と医師の両方に通知が送られます。 

 小型化されたデバイスやセンサーが収集するデータを蓄積することで、この膨大なデータを元に、健康へのホリスティックなアプローチ法を培っていくことができます。回路やセンサーの設計技術の進歩のおかげで、単一のセンサーで複数の身体機能をモニタリングすることができます。身体の複数の場所に装着したセンサー同士が通信してデータをやりとりすることで、患者と医師の両方に、より質の高い全身情報を提供することが可能となっています。

小型化で廃棄物を削減する

医療機器の小型化は、快適さと便利さを提供するだけでなく、これも消費者の関心事である、持続可能な環境の促進にも貢献します。Journal of Health Services Research & Policy(英語)の研究論文によると、ヘルスケア業界は、最も炭素強度の高い分野で、世界の温室ガス総排出量と有害大気汚染物質の4.4%を占めるとされています。  

 小型の医療機器であれば原材料の使用量は少なく、デバイス生産時のエネルギー効率は高くなり、最終的な廃棄量は少なくなります。各医療機器メーカーでは、従来の医療機器よりも廃棄物の量を減らすため、充電可能でリサイクル可能な電子部品の使用割合を高め、注射器には単回使用部品の数を少なくした設計を用いるようになってきています。 

設計と法規制に関する課題への対処

医療機器の小型化は、患者と治療者に多くの利点をもらたすものですが、小型医療機器の設計や生産は、複数分野の専門知識が必要な複雑なプロセスです。  

 小型電子部品は、大量の情報を収集、伝達するだけの能力と信頼性を備えると同時に、特殊な狭いスペースに搭載できる部品でなければなりません。  

 患者さんが不快に感じないよう十分に柔らかく、同時に汗や衝突、落下、水濡れに耐える生体適合性材料を使う必要があります。高度な精密射出成形の技術を用いながら、数多くのトライアンドエラーを繰り返して、やっと、柔軟性と耐久性の最適バランスがかなったものを作ることができます。 

 さらに、機械に強いとか弱いとかに関係なく、普通の人が普通に使いやすいものでなければなりません。さらには、患者さんのデータを安全に保護するための厳しい規則を遵守なければなりません。 

 埋設型や装着型の診断/投薬機器に関しては、規制適合に関してさらに厳しい精査の対象になります。この際、メーカーは、使用法、有効性、成功率を証明した調査資料を提出しなければなりません。承認を得るために、最大で10年を要する完全な臨床試験の実施が必須になるものもあります。 

設計から生産、組立てまでの連続性

マイクロエレクトロニクス部品を搭載した、小型化された医療機器の製造は、各種マテリアルハンドリングの技術や、精密アライメントを担う装置等を用いた専用のプロセスを必ず伴うもので、人の肉眼では見えないサイズのパーツを扱う場合には製造工程の難易度はさらに高まります。小さな部品を損傷しないよう、製造装置には精密な調整が必要ですし、梱包段階でも包装材のプラスチックに静電気を発生させない処置が必要です。 

 このような医療機器用の部品を大量生産するには、手作業の組立工程を自動化した専用工程を開発する必要があります。小型のプリント基板には、複数回のX線やソフトウェアを用いた試験と、目視での検査も必要になります。 

 最も効率の良い製造および組立工程を開発するために、製品の設計側に少々の変更が必要になる場合もしばしばです。このようなことから、製品の開発計画のスタート時点から設計者と製造者が協力を開始し、全フェーズで専門知識を共有しながら、最終的な量産につなげることが重要になります。

小型デバイス生産でワンストップショップ的なメーカーを活用する

他の医療機器メーカーとは異なり、Phillips-Medisizeは、モレックスグループ企業という利点を生かし、長年蓄積された広範に及ぶ専門知識を、高性能小型医療機器の設計、製造、組立て、および試験にも応用できる環境にあります。つまり、弊社との協働で、製造と組立てラインの条件等を、設計初日から考慮に入れながら設計開発を進めていただくことが可能になります。このような形で、医療機器メーカーが同等の専門知識を持つパートナーと設計の開始段階から協働することができれば、フラストレーションや手直し、遅れ、コストの追加等を排除できますし、最終的には他社よりも早く、新製品を市場に出すことができると考えています。 

Phillips-Medisizeが提供する医療機器関連テクノロジーの詳細情報については、弊社ウェブサイト(英語)をご覧ください。

患者のリモートモニタリングデバイスは、少し例を挙げるだけでも、心疾患、慢性閉塞性肺疾患、喘息、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群を含むさまざまな疾患に使用できます。社会の高齢化に伴い、より多くの人々がこれらの慢性症状を経験するようになり、パーソナライズされたリモート管理は来院や入院の減少に役立ちます。

しかし、デバイスは、患者がその着用に同意した場合にのみ有用です。初期のデバイスは面倒で複雑でした。たとえば、心臓モニターは胸全体に広がる複数の電極があり、そのような配置が義務付けられていました。それでも信号伝送はよく欠落しました。

心臓モニターやその他のデバイスを小型化することにより、患者はそれらを無理なく装着して日常生活を送ることができます。今では多くの人が、スポーツ活動やシャワーの時でさえそれらを着用できるようになりました。一部の企業は、飲み込み式の「ピルカメラ」を開発し、消化管の画像を記録し、不快で時間のかかる臨床手順を置き換えることを可能にしました。

また、一部の企業は、自宅での手順をより容易に、快適に、より効果的なものにしました。たとえば、血糖値継続モニターは、糖尿病患者の血糖値を皮下に設置したセンサーで10秒ごとに計測し、痛い思いをして指から採血する必要を減らしました。定常的なモニタリングは、血糖値が高すぎたり低すぎたりすると危険信号を早期に発報し、患者に心臓病や脳卒中を防止するためのすばやい対応をとらせます。

アレルギーや喘息などの疾患では、小型センサー付きの薬剤注入器が完璧な送達を確実にします。たとえば、フィリップス・メディサイズのAria smart autoinjectorは注入の進行状況についてユーザーに音声で知らせ、毎回正しい用量を確認します。センサー技術は薬剤の使用期限日についても監視し、期限が近付くと患者と医師に警告します。

小型化したデバイスとセンサーは大量の情報を収集、統合し、健康に対するホリスティックなアプローチを提供します。回路設計とセンサー設計の進歩のおかげで、1つのセンサーで身体の複数の機能を監視できます。身体のさまざまな部位に装着したセンサーは相互に通信し、患者と医師の両方に医学的状態に関するより優れた全体像を提供します。

小型化によって廃棄物の極少化に貢献

快適性と利便性の提供に加えて、小型化した医療デバイスはもうひとつの消費者の懸念である環境サステナビリティの推進も支援します。医療は最も炭素集約的な業界のひとつで、ジャーナルオブヘルスサービスリサーチ&ポリシーが発表した研究論文によれば、世界の温室ガス実質排出量および有害大気汚染物質の4.4%を占めています。

小型デバイスは使用する素材も少なく、生産にあたってのエネルギー効率も高いため、廃棄物は少なくなります。メーカーはより多くの充電式のリサイクル可能なエレクトロニクスを使用するようになり、薬剤注入器も単回使用コンポーネントを少なくするよう設計し、従来型デバイスによって生じる廃棄物を減らしています。

設計と規制の課題を管理

小型化した医療機器は患者と医師に多くのメリットを提供しますが、その設計と生産は複雑な作業となり、複数の分野の専門知識が必要になります。

小型サイズのエレクトロニクスは、大量の情報を信頼できる形で収集、リレーするための十分な電力を確保できるように設計しつつ、小さくてイレギュラーなスペースに収まるようにする必要があります。

メーカーは、十分に柔らかく患者に快適性を提供するとともに、汗、衝撃、落下、湿気に耐える、生体適合性のある素材を使用しなくてはなりません。高いスキルを必要とする精密射出成形の使用や、多くの試行錯誤により、柔軟性と堅牢性の正しいバランスが確保されます。

デバイスはまた、一般の人がその技術的能力に関わらず容易に操作できなくてはなりません。また、患者データのプライバシーを守り、常に保護するという厳格な規則にも従わなくてはなりません。

診断や投薬を行うインプラントとデバイスは、さらに多くの規制審査の対象となります。メーカーは、使用、有効性、成功率を証明する研究結果を提出しなくてはなりません。一部のケースでは、承認を得るために完全な臨床試験の実施が求められ、そのプロセスは最長で10年かかります。

製造と組立を通した設計の継続性

マイクロエレクトロニクスを含む小型化デバイスの製造には、さまざまなマテリアルハンドリングテクニックと、精密アライメントを確保するテクノロジーを含む専門的なプロセスが必要になり、部品が人間の目で視認できないほど小さい場合、その実現は容易ではありません。コンポーネントを傷つけないように取り扱うよう機器を調整しなくてはならない上、プラスチック容器から静電気が発生しないように包装しなくてはなりません。

デバイスを大量生産するには、メーカーは、手作業による組み立てをオートメーションで置き換えるためのカスタム手順を開発する必要があります。小型のプリント基板は、複数のX線試験、ソフトウェア試験、目視試験が必要です。

製作と組立に最も効率的なプロセスを使用するため、元の製品設計を調整しなくてはならないことがよくあります。この理由から、設計者が最初から製造の専門家と連携して作業することが重要です。これによってチームは、最初の計画から最終的な生産まで製品が各段階を進んでいく過程でお互いの専門知識を共有できます。

小型化デバイス専門知識のためのワンストップショップ

他の医療機器メーカーとは異なり、モレックスのグループ企業であるフィリップス・メディサイズは、高性能な小型医療製品の設計、製造、組立、試験のすべての段階における長年の経験と幅広い専門知識を有しています。このことは、製作と組立についての考察が最初の設計段階から組み込まれていることを意味します。これによってデバイスメーカーは、全プロセスを通じて同じ専門家チームと連携でき、不満ややり直し、遅延、コスト超過などを排除し、最終的に製品を競合他社に先駆けて発売できます。

お客様の医療製品に命を吹き込む際にフィリップス・メディサイズの専門家たちがどのようにお役に立てるかについては、当社ウェブサイトをご覧ください。